Last Update October 31, 2016

研究室紹介(情報基礎科学専攻・情報基礎数理学II分野 須川研)




情報基礎数理学第II分野には現在私と田中准教授が所属していますが,二人の専門は全く異なるので学生の指導は別々に行っています.以下は須川の専門分野に関する説明です.


私の専門とする分野は複素解析学と呼ばれるもので,特に複素数の持つ美しい性質を用いて函数やその土壌となる領域や面の研究を行っています. コーシーの積分定理をはじめとする理論的な考察もさることながら, 最近ではコンピュータを援用してより具体的な問題にもアタックしています. 古典的すぎて,もはや研究すべきものは何もないと思われがちな分野ではありますが, まだまだやるべきことはたくさん残っていると個人的には思っています.
大学院では次のような研究に対応いたします.



古典的複素函数論

大学の通常の学部レベルの複素函数論の講義では,どうしても必要最小限の事項しか紹介されません. しかし,その先にいくらでも面白い結果が控えているのです. たとえば,辻正次 著「複素函数論」(槇書店)を手に取ってみて下さい. さらに進んで細かい古典的な結果を勉強してみるのも意外な発見があったりして十分楽しめます. まさに「故きを温ね,新しきを知る」ですね.

リーマン面

函数論のちょっと進んだ話題としてまず登場するのがリーマン面の理論です. まさに現在の代数・幾何・解析の発展の母胎となった理論とも言えるでしょう. 古典的にはコンパクトなリーマン面(閉リーマン面)が深く研究されていますが, 解析学の立場からは開リーマン面も興味深い対象です. リーマン面の分類理論など,もはややり尽くされた観もなきにしもあらずですが, まだまだすべきことはたくさんあります.

タイヒミュラー空間

固定された(向き付け可能)位相的2次元多様体にどれだけリーマン面としての構造が入るか? これはリーマンのモジュライ問題と呼ばれ,深く研究されてきました. その決定打とも言えるのがこの理論です. 近年では弦理論などとの関連からも注目を集めたりしましたが, 構成がとにかく超越的なので,まだまだよく分からないことだらけです. 私自身はこの空間のベアス埋め込みに興味を持って研究を続けています.

擬等角写像

タイヒミュラー空間を理解するには必要不可欠なのがこのクラスの写像です. タイヒミュラー空間はもとより,最近では複素力学系でも本質的に用いられています. かなり便利な形での存在と一意性が知られているので(可測型リーマン写像定理) 道具として使えれば十分という人も多いようですが, まだまだマニア向けの未解決問題がごろごろ転がっていてやりがいのある分野とも言えます. 最近では特に擬等角性を拡張して,退化ベルトラミ方程式の同相解を研究したりしています.

クライン群

タイヒミュラー空間論を展開するにはリーマン面を一意化するフックス群を考えるのが重要となります. その擬等角変形として現れるのが擬フックス群と呼ばれるクライン群です. より一般にメビウス変換群の離散部分群はクライン群と呼ばれ, 近年では3次元多様体論との関連から注目を集め,様々な方面から研究されています. 函数論というよりかなり幾何的色彩が強い分野ですが, 函数論的手法からもまだまだ多くのことが導けるのではないかと期待されます.

複素力学系

マンデルブロー集合とかジュリア集合という言葉を耳にされたことがあるのではないかと思います. まさにそのような集合を理論的に扱うのがこの分野です. リーマン球面上の有理函数の逐次合成によって点がどのように動くのか,その力学系を研究する学問です. 最近のコンピュータの発達により急速に発展を遂げましたが, 最近ではあまりにも難しくなりすぎて私はもっぱら傍観者となっています(が, 研究を支援することは可能です).

ポテンシャル論

正則函数の実部や虚部は調和函数と呼ばれる特別な函数になっていますが, そのような調和函数について偏微分方程式論とは少し別の立場で論じるのがこの分野です. 言葉の響きからは物理っぽいイメージを持たれる方が多いかもしれませんが, 実際には古典的函数論と相まって発展してきた学問で,函数論とは密接な関係にあります. たとえば正則函数や有理型函数の存在を主張することは容易ではありませんが, 与えられた境界値を持つような調和函数の存在はペロンの原理により, 比較的容易に言えます.そのような調和函数の複素偏微分を取れば正則函数となるので, それを使って複素函数論における様々な存在定理が証明されるのです.

単葉函数論

擬等角写像論は,実はこの単葉函数論と意外と密接に関連しています. 単葉函数とは単射(一対一)であるような正則写像ですが,主に単位円板における函数を扱います. 単葉函数論は20世紀にかなり独自な発展を遂げ, 実際にはかなり独立した分野になってきています. 中心的な問題であったビーベルバッハ予想が1984年にドブランジュによって証明されてから, 急速に斜陽になってしまった分野ではありますが,まだまだ面白い問題が転がっていますし, 他の分野への応用もたくさんあります. 趣味的数学の好きな人にはお薦めの分野です.

等角写像論

単葉函数論と同じような研究対象でありながら,なぜか区別される分野です. 単位円板に限らず,様々な領域からの単射正則な函数を扱います. 特に「等角不変量」を研究する分野と言ってもいいかもしれません. そういう意味では次に挙げる双曲計量の研究もある意味ではこの分野に入ります. 最近ではコンピュータを用いた数値等角写像論というのも盛んになってきているようですが, 実際にはコンピュータでは解決できないような難問がたくさん残っています.

二次元双曲幾何

単位円板はポアンカレ円板とも呼ばれ,双曲平面のモデルとしてよく使われます. 実はこの双曲幾何と函数論が非常に相性がいいのです. また,一部の例外的リーマン面を除けば,ほとんどのリーマン面が固有の双曲幾何を持ちます. そのような双曲計量の研究が,様々な古典的函数論における定理を導き出すことは経験的によく知られています. 双曲計量もまた非常に重要でかつ面白い研究対象です.

特殊函数論

複素函数論では様々な特殊函数が現れます. たとえば,ガンマ函数,楕円函数,リーマンゼータ函数,超幾何函数などなど. これら全ては複素函数論の研究対象に入ると言えます. このような具体的な函数の研究が,深い定理のキーになることがあり, 近年このような特殊函数の研究が(19世紀に続き)再び盛んになってきています. 私は最近では超幾何函数に双曲幾何との関連で興味を持っています.

複素領域内の微分方程式論

解析函数を係数とする複素領域内での微分方程式論は, もちろん函数論にとっても非常に重要な研究テーマです. 私は最近ではシュワルツ微分への応用からある種の比較定理に興味を持って研究しています. また,単葉函数論において重要な従属性(subordination)という概念がありますが, 実の場合の「微分不等式」を複素に拡張した概念が「微分従属式」とでもいうべきもので, その研究も徐々に進んできています.これからの研究対象として面白いものだと思います.

多項式の幾何学

複素係数の1変数多項式は整函数の一つですから,その幾何学的研究は複素解析の一部に含まれます.Gauss-Lucasの定理などは複素解析的な結果の一つと見なされます.昨今では,Sendov予想やSmale予想などの未解決問題が盛んに研究されており,新たな発展を見せつつある分野です.対象がとっつきやすく,コンピュータによるシミュレーションも簡単なので,初学者にも近づきやすい領域となっています.

モーメント問題

与えられた数列がいつ測度によるモーメント列になるかを問う問題をモーメント問題といいます.これ自体は純粋に実解析的な定式化ですが,母函数や測度のコーシー変換を考えることによって上半平面や下半平面における正則写像との対応がつきます.このような数列と正則写像との対応を考えることにより,双方の理論が深く関係し合っており,それを読み解くことによって興味深い結果が数多く導かれています.Schurアルゴリズムや連分数の理論とも密接に関係しており,古典的ですが興味深い分野の一つです.

多変数函数論

私の研究対象は正確に言えば「1変数函数論」なのですが, もちろん多変数函数論も複素函数論における重要な一分野です. (独立した一分野と言ってもいいくらいです.) 私自身はこの方面に詳しくありませんが,研究の支援をするくらいは可能だと思います. 多変数と言っても,実際には無限次元空間での函数論もあり,その範囲は遠大です.


卒業生の主な研究テーマと進路

2008年の着任以来指導した学生の研究テーマ,進路は次のようになっています.

修士論文

博士論文

進路
前期課程:後期課程進学,住友生命,高校教員(非常勤),新日鉄住金ソリューションズ
後期課程:対外経済貿易大学教員(北京),民間企業復職,ポスドク(その後,山口大学工学部教員),蘇州大学教員,ポスドク(その後,東北大学特任講師),山梨英和大学教員,ポスドク(汕頭大学),ポスドク(東工大),ポスドク(深セン大学)

本大学院は日本において(1変数)複素解析学が学べる数少ない大学院のうちの一つです. 大学で複素解析学について興味を持ち,大学院に入ってさらにその深みを追究してみたい方を歓迎します.
情報科学研究科数学群は学部専門教育に直接タッチしていないので,学部学生はおりません.したがって,我々が指導するのは大学院生(博士前期課程・後期課程)のみであり,必然的に主に研究科外部から学生を受け入れています.ですから,数学の専門的知識があまりなくても,勉学に対する意欲がある方,コンピュータには自信がある方,勉強には自信がないが大学院に入ってとにかく何かおもしろいことがやってみたい,という方も歓迎します.
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