5月15日(月)

この日はスウェーデンのミッタークレフラー研究所に滞在中の酒井良先生がヘルシンキ大学に来られるとのことで、私と藤解さんとでSilja lineのフェリー乗り場まで迎えに行きました。Silija lineは相当な大型船で、接岸の際は非常にゆっくりした動きでその大きさをあらためて感じさせられました。ほぼ時間通りに到着し、酒井さんを連れて我々は数学教室に向かいました。まずヴオリネンさんに挨拶に伺いました。この日は午前中は解析セミナー、午後からは談話会が2本立てというスケジュールでした。記録のためにどういう講演だったか簡単に紹介をしておきます。

解析セミナー 10:15 - 12:00
T. D.Trotsenko: Relative connectedness

この「相対連結性」の概念は、実は「一様完全性」と同値なのですが、彼はうまい量を定義し、それを用いて相対連結集合のハウスドルフ次元のsharpな下からの評価を与えることに成功したようです。(「ようです」というのは、実はまだ実1次元の場合しかうまくいっていないかららしいのですが、一般次元でも正しそうだという感触を持っているようです。) まだ論文にはなっていませんが、この前段階の研究が D. A. Trotsenko & J. Vaisala "Upper sets and quasisymmetric maps" Ann. Acad. Sci. Fenn. Math. 24(1999) pp.465-488 にありますので、興味のある方はどうぞ。

昼食はヴオリネンさん、トロチェンコさんと我々とで大学の食堂で一緒に食べました。その後軽く散歩してから、13:30からお茶の会があるとのことなので、637室に行きました。部屋にはNevanlinna兄弟や、その他の歴代の数学教室の教授の肖像画や写真が飾られており、藤解さんはいたく感激されていました。お茶・コーヒーとパンが用意されていたのですが、お昼の後だというのに我々日本人以外はみんなパンを食べていたのが印象的でした。

談話会
14:15-15:00
Makoto Sakai (Tokyo Metropolitan University): Hele-Shaw flows moving boundary problem whose initial domain has a corner with right angle

45分という限られた時間内でしたが、さすがにうまく説明をされていたように思います。直角というのは実はcriticalな角度になっているそうなのですが、その場合にその点が境界点としてしばらくじっとしているか、そうでないかのかなり精密な判定条件を与えるという内容でした。最後に"key lemma"として紹介されていた極限の式がなかなか面白かったですね。放物的固定点におけるiterationが出てくるのですが、確かに複素力学系などでは考えられていないような量なので、あまり知られていない結果なのかもしれません。

15:15-16:00
Peter Lindqvist: The infinity harmonic functions: examples and observations

この方は、紹介によると、Technical University of Trondheim, Norway とのことでしたが正式名称がこれでいいのかどうかは調べていないので分かりません。この「∞-調和」という概念はなじみのない方が多いでしょうから少し説明をしておくと、非線形ポテンシャル論で標準的に考えられている「p-調和」という概念があり、大雑把に言えばこのpを無限大に持っていった時の極限にあたる微分方程式を満たす関数ということになります。解の存在と一意性を言うためには、微分方程式でよく使われている弱解を用いる方法は、この場合にはL^∞を扱わなければいけないためうまくいかず、そのためにポテンシャル論的なアイデアが必要になるらしい、ということまでは分かりましたが詳細についてはもちろん私には分かりませんでした。(というより、そもそも45分では説明不可能でしょう。)

出席者は午前中のが一番多くて、名誉教授クラスの方々が見えていたのが印象的でした。午後の方が出席者がやや少なかったというのは奇妙に思えましたね。

講演終了後に、100年以上続くという談話会の講演者のアブストラクト集(講演者による一種の講演記録)に酒井さんも書かれていました。私も見せてもらいましたが、なかなか錚々たるメンバーが講演しているのだなということが分かります。その後でヴオリネン先生の部屋で写真を撮りましたので、ここに1枚置いておきます。

左からヴオリネンさん、藤解さん、酒井さん
 

その後は酒井さんを再びフェリー乗り場までお送りし、そこで少しお茶をしてから先生とは別れました。
夜は藤解さんは夜行でJoensuuに帰られるということだったので、食事をおつきあいすることにし、Kellarikrouviというフィンランド料理のお店に入りました。1階は普通のバーみたいな感じですが、地下にレストランがあります。値段はまあ普通でしたが、雰囲気はなかなか良かったです。サーモンのスープを頼みましたが、もっと温かければおいしかっただろうと思うとちょっと惜しかったですね。